「いいまちづくり、役立つ図書館」を目指して | ||||
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3つの市・町で図書館員として働いて考えたこと 1973年(昭島市民図書館)→ 1977年(日野市立図書館)→ 1999年(田原町)→ 2002年(田原町図書館、2003年田原市 図書館)→ 2010年退職(田原潘日記の翻刻) ・館長のリーダシップと市民の期待に応えつづけられない 図書館への失望 ・図書館員の資質 = 資料を求める利用者への共感、 「基本の徹底」と「変化への対応」 |
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田原町図書館をはじめる時に、住民からもとめられたこと 「ノーベル賞をもらえるような人を育てて欲しい」 人を育てる ⇒ 社会を担う次の世代、健全な大人を育てる 「図書館の利用者は地元で買い物をしてくれるのか」 ⇒ 活発な図書館活動が地域にもたらすもの |
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どのような図書館を目指したか ・当たり前の図書館活動を地道に 「三つの役割を果たしたい。まず、自由で公平な資料の提供だ。(略)次に人々が交流する 快適な場を提供する。(略)三つ目はボランティア活動の舞台となること。」 (資料『朝日新聞』2002年7月17日) ・百年使える図書館(京都議定書) 地域の共通の記憶になる ・職員の態勢と館長司書有資格(直営の館長としてできること) 2002年:正規7嘱託8(全員司書、嘱託職員に昇給制)+臨時2 2003年:嘱託2名増/04年祝日開館し土・日・祝日勤務の嘱託2名 2005年:昇給額廃止に伴い週5日35時間勤務、月額20万円 |
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利用しやすい図書館を目指して(田原市図書館) | |||||||||||||||||
・主題重視の混配(単行本、参考図書、AV資料、雑誌の混配) ⇒ 自分で探しやすい図書館。 セルフ・レファレンス ・フロアの目立つ場所にレファレンス・カウンター(認知度は低いが満足度は高い) ・行政資料の収集・配架(図書館条例に田原市行政資料の納本規定) ⇒ 行政資料はまちづくりを考える市民の基礎資料 ・利用条件 貸出期間3週間、参考図書の貸出し、ブックポストにAV資料の投入可 ・インターネット環境の整備 (コンセント、プリンター、無線LAN) ・目の前の利用者を大事に(書架に案内、OPACの使い方の説明、誰でも自分のために他人が 働いてくれたら感謝する) ・予約・リクエストの重視(20年度処理件数81,384件、協力貸出・相互貸借での借用点数は 1,739点、人口千人当り26.3点、愛知県内で最多) ・「基本四原則」を参考に ・資料の充実(中央・雑誌:388種、CD:10,259点、ビデオ:3,806本、 DVD:2,245点) ・移動図書館を市内全小学校に月2回巡回 「子どもは人口の20%だが、未来の100%だ」英ブラウン元財務相 ・研究個室、AVルーム、館内に飲食コーナー ・館内のディスプレイ(関心のあるテーマ、歓迎している雰囲気をつくる) ・平成19〜20年度に新たに取り組んだこと(変化への対応) 図書館活用講座(検索・予約、DB、インターネット) こぶっくおはなし隊(保育園、学校などへのアウトリーチ活動) 本探しお助けペーパー(YA担当) パブリックコメント関係資料の展示・閲覧 館内無線LAN設置 キャリア・デザイン講座 英語多読資料の収集・提供 書店との連携 |
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市民・利用者の評価 |
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・「図書館の充実」が田原市の施策のうち最も満足度が高かった ・「田原の図書館は日本一だから見ていってください」 ・「館別累積距離」遠方からでも来館したくなる図書館 |
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愛知工業大学都市環境学科による来館者調査(2007年10月) |
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図書館長の役割 |
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@図書館の目標を定め、職場全体で共有する A図書館の方向性を示し、職員の自発的な取り組みを励ます B嘱託職員が働き続けられる雇用条件(給与と雇い止め)を守る C専門職館長へのバトンタッチ |
【資料】田原市中央図書館と委託による運営との比較 | ||||
運営 | ||||||||||||||||||
田原市は直営、A館とB館は管理業務を除いた図書館サービスを委託 |
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3館の中央図書館について比較をおこなった |
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人口 | ||||||||||||||||||
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図書館費(平成20年度当初予算、正規職員人件費を除く) |
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貸出点数(中央) |
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予約処理件数(全館) |
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A中央図書館 |
B中央図書館 |
田原市中央図書館 |
評価 |
【資料】図書館嘱託員の報酬額について | ||||
森下さんのお話で、図書館職員が一番大事(利用者への共感)というところが心に残った。 子どもが小学生の頃、地域の図書館が充実していて、司書さんがよく対応して下さって、本が一生の宝物になっている。 良い図書館の役割は、本当にいろいろあるが、子どもを育てるというところが一番大切。良い図書館があることが市民の財産。 |
具体的な内容でわかりやすかった。人生観の話もあり、有意義で勉強になった。図書館のあるべき姿が、より具体的になった。 |
・聞くものの関心をそらさない楽しい講演で、しかも内容豊かでいい講演でした。資料、家でゆっく り読ませていただきます。 ・「基本の徹底」と「変化への対応」特に「変化への対応」の姿勢に共感しました。10年前、県立 図書館に武満徹全集(CDと論文・楽譜も含む10万円位のもの)をリクエストしましたが、CD は対象にできないと断られたことが今でも残念なこととして心に残っています。コミック(芸術性 の高いものがたくさんあります)、音楽、映像も文化の一つとして図書館でも積極的に扱っていた だけるとうれしいです。 ・京都新聞(2015年4月8日朝刊)に取り上げられた記事が分かりやすく、説得力がありまし た。 |
この度のことで、図書館について、初めて深く考えるようになりました。 日頃使っている図書館では、あまり司書の方に相談することはありませんがいい図書館は、司書がしっかり選書をしているということにも気づきました。 |
希望を持ち続けていきたいと思いました。 |
森下さんのお話から図書館創立時の熱い思いが伝わってきて、今、大津市の図書館に一番不足しているのは、まさに図書館員一人一人にその熱い思いが感じられないことです。残念なことですが、フリートークで市図書館職員の内情を聞く機会がありました。お聞きした現状で熱い思いを育てることができないとわかりました。市民として図書館を図書館職員をそして将来の市民を育てる義務があると考えました。 |
まったく無知だったので新鮮でした。 |
図書館の役割は、市民が自分の考えを作るための手立てを示してくれるもの・・・という言葉は何と心強いことかと思いました。ありがとうございました。身近な人々に今日伺ったお話を少しづつ伝えたいと思います。 |
1.図書館の存在価値を再認識した。 2.「良い街にしたい」という想いは記憶から生まれる!に共感した。 3.本を読んで考える人が増える⇒富士山のように裾野が広がれば頂上も高くなる。 4.教育の役割⇒「人を育てる」そのとおりですね!! 5.「子どもは人口の20%だが、未来の100%」 ←これを英国ブラウン財務相が言ったのがす ごい! 6.図書館の問題を今回知ることができました。 7.大津市からすばらしい公営図書館を出したい! ⇒そのためには、財源が必要! |
大変良かった。図書館の大切さがよくわかった。 今後も、このような研修会を続けてほしい。 |
胸の高い位置で手を合わせて、情熱的にお話になる面影がどことなく西田敏行さんを思い出させて、とても引き込まれました。図書館というもの、本というものが、いつでも人の心の琴線を激しくかき鳴らすものであるということを改めて感じました。そして、私自身の心の琴線にそんな安価に触れられると思うなよ・・・と、市の担当者にいいたくなりました。為政者というのは、100年前と相も変わらず市民を文盲のままにおきたいのかな・・・・とも思いました。森下さんは一言もそんなことはおっしゃらなかったけれど、そんな事を深く考えさせられました。 |
図書館司書の給料は、13万少しが相場です。立命館など大学での委託職員は、時給950〜980円です。図書館の開館時間が立命館は、日本一長い夜遅くまで開館しているというのがうたい文句ですが、司書に夜間手当はありません。学校図書館では13万からいろいろ引かれ、手取りが11万弱です。嘱託の場合、なんと祝日は減給されますので、5月などは10万をはるかに切ったお給料です。手当としては、交通費だけがでます。有給休日は、10日です。司書の労働状況では、一人の人間が専門職として働きながら、生きていくことができないのが現状です。また、滋賀県では、司書が1年採用された後、他の館でまた1年、また1年と渡り歩くような採用をしているので、意欲的な人材が雇われる可能性がほとんどなく、同じ顔ぶれの事務的な職員を来年度は別の館で見ることになります。採用試験に30〜40人の人間が真剣に受験するのに何故同じ人間が、サービスの悪いなどの職員としての資質が問われることなく採用され続けるのだろうか。この体質がある限り、民間委託する方がサービスがよくなるのではないの?という声を消すことは難しいと考えます。まずは、採用時に公正な採用をすることは大切ではないでしょうか。 |
指定管理者制度の困難 −2− 人材育成 | ||||
公の運営の非効率に対して、民間の方が柔軟な運営が可能で、経費の削減もできるというイメージが広く流布していますが、少なくとも図書館の運営については当りません。 既に述べたように、発注者からの仕様書と事業者からの提案書によつて運営される指定管理やPFIによる運営は、活発な図書館活動が継続できる仕組みではありません。しかし、職員数の削減と安上がりを期待して図書館運営を指定管理者などに委ねる自治体も少なくない現状があります。 PFIや指定管理の導入で話題になつた図書館も、利用実績は既存の図書館に比べて平凡なレベルで、数年後には利用の減少が続く例も多く見られます。 公立図書館には無料原則があるので、民間事業者に運営をゆだねても収益をあげ、コストを吸収することは難しいでしよう。公立図書館で利益をあげるとすれば、ネットやテレビの世界のように図書館が宣伝媒体として活用できるとか、図書館活動で発生するデータの加工販売などが考えられます。しかし、これらがビジネスとして成立する可能性はほとんどありません。だから、経費の削減について民間独自の手法がないのです。 PFIによつて建設、運営がされている長崎市立図書館の運営業務総括責任者であった小川俊彦氏は、建設と運営それぞれについて経費の削減を著書で紹介しています。 「公共工事に関しては、国土交通省の公共建築工事標準単価積算基準にしたがうことが求められている。基準は民間の建設費レベルに近づいているともいわれているが、民間がつくるとなれば資材や工事などに工夫ができる。仮に30億円(の施設)として億単位の差が生じる可能性がある」「運営に関する人件費に関しては、いわゆる世間のアルバイ賃金相場、というぎりぎりまで削減しての提案をすれば、おそらく公務員の平均給与の数分の一ということになつているはずである」(『図書館を計画する』)。 建設費の削減は一時的なものですし、民間事業であるPFIは金利の高い民間資金を利用せざるを得ないというマイナスの側面もあります。運営経費(図書館費)の削減は、「世間のアルバイト賃金相場」というあけすけな表現のとおり、正規職員を低賃金不安定雇用のアルバイトに置き換えることで実現するのです。 このような事情は、多かれ少なかれ直営の図書館も同じです。田原市図書館の職員構成は正規職員が三分の一、嘱託・臨時職員が三分の二を占めます。図書館予算の構成をみれば削減が比較的容易に見えるのは非正規職員の報酬であることが分かります。 |
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平成22年度図書館予算から図書館費の構成を見る | |||||||||||||
田原市図書館(愛知県)/単位:千円 | |||||||||||||
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平成22年度田原市の図書館費は1億715万4千円、その内訳は、人件費(嘱託、臨時)44,008千円 41.1%、資料収集経費38,924千円 36.3%、コンピュータのリース料と保守委託の合計が12,020千円 11.2%、この三つの経費の合計が94,952千円で全体の88.6%を占めます。正規職員の人件費は、図書館費ではなく教育委員会総務費に含まれます。 この時期はトヨタショックもあつて厳しい財政運営が続きましたが、非正規職員の人件費、資料購入費、コンピュータ関連経費が図書館費の大部分を占めます。 委託になつたとしても、資料購入費とコンピュータ関連経費、その他施設の維持管理に関する経費等の削減は難しいでしょう。結局、指定管理やPFIなど委託による経費削減の対象は非正規職員の人件費になることは避けられません。 図書館運営受託の最大手であるTRCのHPから募集情報(4月5日調)を見ると、地域により時給は異なりますが800円台が中心です。北海道の780円から、東京で「豊富な経験・スキルのある人」という条件で1,060円でした。時給の違いは各地域の雇用状況を反映したものでしょうが、最低賃金に数十円から百円程度を上乗せした額です。 TRCが東京、千葉で募集していたのは司書有資格900円、無資格890円でした。これはファミレスなどのアルバイトに比べても低賃金です。驚くべきことに、東京の最低賃金は888円(平成26年)で、司書資格がなければ最低賃金と2円しか違いません。これは誰にでも代替可能な単純業務の雇用条件と言わざるをえません。 このような低賃金の職場に有能な人材が確保できるわけがなく、図書館と図書館員は社会的にリスペクトを受ける仕事とは見倣されなくなります。指定管理は低賃金の労働者雇用によって、図書館の発展を開ざす手法になつています。 時給800円台の非正規職員はフルタイムで働いても、税金、社会保険料を控除されて手取りは12万円程度になります。経済的に苦しく自立した生活を送ることは難しいでしょう。 私の知人は、直営の図書館で月額20万円余の報酬で20年以上働いて退職しました。このように、非正規職員(嘱託)として比較的めぐまれた条件の人でも年金は月額9万円程度です。 非正規職員として働く現役時代も豊かとは言えませんが、老後はさらに厳しい経済状況に置かれます。このような人たちの生活を守るのは、最終的には自治体、国の役割です。 指定管理などのアウトソーシングは、多くの公的分野に進出していますが、企業が本来負担すべき経費、人件費を自治体や国に付け回しをしていると言えます。 指定管理やPFIなどのアウトソーシングは、誇りを持って働き、人として尊厳を持って生きるための雇用条件を提供できません。低賃金で継続雇用が保障されない現状では、仕事のできる有能な人ほど図書館で働けなくなります。 一人前の図書館員になるには時間が必要です。経験し、学び、考えて、図書館員としての責任感、当事者としての覚悟ができるのです。指定管理者制度で図書館活動の将来を担う人材育成は決してできないでしょう。 |