「職人の昔ばなし」
KEI
 職人という言葉は死語になったのだろうか。最近この言葉を聞いたことがない。しかし、職人の技術は私達の知らないところで伝承されているに違いない。京都文化博物館での絵画展観覧の後、京都迎賓館を案内付きで見学してそのように思った。
 平成17年建設の京都迎賓館について、同館のホームページは「建物や調度品には、数寄屋大工、左官、作庭、截金(きりかね)、西陣織や蒔絵(まきえ)、漆など、数多くの京都を代表する伝統技能において匠の技を用いています」と関係する職人の技術を上品に説明している。
 この京都迎賓館見学が、かつて読み、感激した斎藤隆介著「職人衆 昔ばなし」、「続職人衆 昔ばなし」(いずれも文藝春秋刊)を思い出させた。今でも入手できるのか気になり、調べたところ前者は文春学藝ライブラリーで入手できるようだ。
 この2冊の本では正・続合わせて49人の職人と1人の工芸指導所長が紹介されている。この中には芸術院会員や人間国宝も含まれている。
「あたしゃァこの四寸ガンナからでてきたカンナ屑は、惜しくってしばらく取っといたね。堂々たる四寸幅で、薄くってフワフワしてやがって、一気に二間削った長いやつが丸めると手のひらのなかへはっちまって見えねえくらいなんだ」という棟梁の話、「水を入れて伏せた重箱から水がこぼれなかった」と先代親方の話をした塗師職人、蛤形蒔絵香盒のデザインを考えるのに蛤や浅蜊を何百と買い込んで、半年間眺めたという人間国宝の蒔絵師の逸話、「『おれの葺いた瓦が手でひんぬけたら、わら草履を一足買ってやらァ』ってもんですから、なにお!と思ってやったんですが、押しても引いても動かばこそ、とうとうあやまっちまいました」と先輩の話をした瓦師の話、など今でも鮮明に覚えている。
 あとがきで齊藤は「この方々の人生を、この方々の語り口で、もう一度われわれは聞いてそして考える必要があるんじゃなかろうか。『伝統技術の保存・継承・発展』なぞと四角い言葉で考えるとこぼれ落ちるものが、この人たちの汗と涙のしみこんだ話からまるまる掬い上げられるのではなかろうか。私は思って書き続けました」と書いている。
 どの人の昔ばなしを読んでも面白く、為になる。為になるというより、人としての生き方を教えられたり、現在の世の中を考えるヒントが与えられる。
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