海外出張や海外旅行に行くに際しては海外旅行保険を付保することは常識であろう。しかしそれを付保した本人は自らが死に遭遇することはまず考えていない。私も同じであり“保険はお守り”程度の認識である。
しかし、現実には海外で命を落とす人も多い。アフガニスタンで武装勢力に銃撃されお亡くなりになった中村哲医師やイラクで銃撃を受け殉職された奥克彦参事官の例もある。観光旅行でもエジプトの観光地ルクソールにおいて日本人10名を含む67名が死亡したイスラム原理主義過激派による無差別殺傷テロ事件も起こっている。ニュージーランド南島のクライストチャーチで発生した地震によっては日本人留学生28人が亡くなった。
外務省の海外邦人援護統計によると、2019年には529人が海外でお亡くなりになっている。
国際霊柩送還士との副題のあるノンフィクション「エンジェルフライト」(佐々涼子、集英社)を読んで、外国でお亡くなりになった人々のご遺体を日本に送還し、エンバーミングを施し、遺族へ送り届けるまでの諸々、さらにはこれらを巡る種々の問題を極めて具体的に知ることになった。
この本の最初に現れる鉄板で封をされ海外から搬送されてきた箱に入ったご遺体の描写は、私の想像を絶するものであり、思わず目を背けたくなった。
この本で描かれている人物たちはこのような状態のご遺体をエンバーミングして生前のような状態に戻しご遺族に届ける。
彼らは日本で最初に設立された国際霊柩送還専門の会社エアハース・インターナショナルの従業員たちである。この本は彼らの現実の活躍やご遺体に対する思い、遺族との関りなどを抑えられた筆致で紹介している。読みつつ何度か涙を流したし、鼻の奥がツンとなった。
国際霊柩送還の仕事について著者は「海外で邦人が亡くなった場合は、まず現地において警察による検視や遺族による本人確認が行われる。その後さまざまな書類上の出国手続が取られるとともに、現地の葬儀社やエンバーマーが適切な処置をして遺体を飛行機などに乗せ、日本へと送る。日本に到着した遺体はエアハースが必要な処置をして、自宅や葬儀社に送り届ける」と説明する。
現地でご遺体の状態を見て本人と確認した人びとの多くは、国際霊柩送還され入念にエンバーミングを施され、傷跡や欠損部分のない生前のようなご遺体と対面し、繰り返し繰り返し心からの感謝の言葉を述べる。
そして記憶からは無残な遺体の状態は消し去られ、幸せだった時、楽しかった時の状態のみが残る。
著者は最後に今までの取材を次のように総括する。「たとえ遺体の処置をしても、医療的な手術のように命を救うわけではないし、蘇生するわけでもない。・・・なぜ次の日には骨にしてしまうというのにわざわざ合理的とは思えない行為をするのだろう。・・・我々はいくら科学が進歩しようとも、遺体に執着し続け、亡き人に対する思いを手放すことはできない・・・」と。